4人に1人は酸蝕症

 酸蝕症(さんしょくしょう)という病名を知る人は意外と少ない。 ということは認知度が低くこれまであまり使われていないからだと思う。 歯の病気であり、酸蝕症に侵された歯を酸蝕歯(さんしょくし)と呼ぶ。 歯の表面は硬いエナメル質で覆われているが、酸性飲食物の過剰摂取や胃食道逆流症、酸性薬剤(アスピリン、ビタミンCなど)の常用などにより、酸がエナメル質を化学的に溶解し、再石灰化のスピードを上回り続けると、やがてその下の組織である象牙質が露出する病気である。 

 酸蝕歯の表面は、次第に平らになり全体的に丸みを帯び、表面の色は白濁したり、黄褐色となり、やがて歯の先端が折れたり、象牙質が露出し、冷水痛咬合痛をきたすことになる。 酸蝕症は歯軋り・咬耗や歯ブラシによる過度のブラッシングなど他の要因と重なると進行が早まる。 細菌が関与していないという点で、虫歯とは異なる。

 疫学調査によると、成人の酸蝕症罹患率は26~29%とされ、4人に1人以上がかかっているという頻度の高い生活習慣病である。 高齢者を調査対象とすれば、罹患率は更に高くなることが確実視される。 

 歯のエナメル質が溶け出す臨界pHは、pH5.5であり、炭酸飲料(コーラ飲料など)、スポーツドリンク、栄養ドリンク、ヨーグルト、酢、ビール、ワイン、日本酒、梅酒、レモン、ミカン類、各種ドレッシングなど、pH5.5以下の酸性飲食物を摂取する場合は長時間口の中に入れず、摂取後は数回お湯や水でうがいして、口の中の酸を洗い流すよう心がけることが予防となる。 また、歯磨きは食後すぐ始める人が多いが、酸の影響が残る食後1時間は待ったほうが理想的とされる。

歯が抜けてあなた頼むもあもあみだ  小林一茶
歯ぎしみの拍子ともなりきりぎりす  小林一茶
金柑は葉越しにたかし朝の霜  芥川龍之介

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食べごろに熟した庭の金柑 (2016年12月24日 撮影)

落としたものを食べる時の「5秒ルール」

 古今東西を問わず、落としたものを拾って食べるときに通用する金科玉条(golden rule)として「5秒ルール」(5-second rule)がある。 私が育った地域は、信州の田舎で、どちらかといえば寒冷地であり、子供の頃は時に食べ物を床に落としても、この「5秒ルール」を使って、すぐ拾えば大丈夫の感覚で、落とした場所にもよるが大抵はすぐ拾って付着した異物を取り除き、拭いたりちょっと洗ったりして食べてしまったものだ。 

 床に落とした食べ物をそのまま食べて本当に安全かといえば、そうでないことは明らかだ。 食べ物を床に落とすと細菌汚染は1秒未満で発生しうるという実験結果が今秋、米国の研究グループにより発表された。

 米国New Jersey州立のラトガーズ大学(Rutgers University)の研究グループ(RC Mirandaら)は、パン、スイカ、グミのキャンディーなど色々な食べ物をセラミックタイル、ステンレススチール、木、絨毯などの面に落下させた。 それぞれの落下面は非病原性のEnterobacter aerogenesというサルモネラ菌に似た細菌で汚染させ、完全に乾燥させたのちに落下実験を行った。

 接触時間が1秒未満、5秒、30秒、300秒に分けて、食物への細菌移行率を調べた結果、細菌移行率は食物と面の接触時間の長さと、食物の水分含有量によって上昇しており、細菌汚染は1秒未満で起こりうることが分かったという。 汚染は食物の水分量に最も影響を受け、汚染リスクはスイカで最大、グミのキャンディーで最小だった。 汚染レベルは木に落とした場合ではばらつきが大きく、絨毯ではタイルやステンレススチールより少ないことが分かったという。 

 スイカやソフトクリームなど水気の多い食品を落とした時は、きっぱりと未練を捨て、食べずに捨てたほうが無難である。

うつくしや年暮れきりし夜の空  小林一茶
山中に沈む鐘の音師走空  井田良江
女を見連れの男を見て師走  高浜虚子
旅寐よし宿は師走の夕月夜  松尾芭蕉

庭のたまがすみ
今年も咲き始めた庭の椿「玉霞」 (2016年12月3日 撮影)

笑う門には福来る

 古来、「笑う門には福来る」(Fortune comes in by a mercy gate.) という。 よく笑うと、NK細胞など免疫細胞が活性化されて感染症や癌に罹りにくくなるといわれて久しい。 平成27年における日本人の死因の第1位 がん、第2位 心疾患、第3位 肺炎、第4位 脳血管疾患、となっており、平成25年に肺炎が脳血管疾患を抜いて第3位となって以来、肺炎が第3位を維持している。 かくて近年高齢者の死因として肺炎の重要性が高まっているが、これは嚥下機能の低下による誤嚥を原因とするものが主体で、70歳以上にみられる高齢者肺炎の7割以上を誤嚥性肺炎が占めている。 口を最大限開けて発音する「アイウベ」運動などが予防運動として推奨され、普及しつつある。

 高齢になっても食べ物をよく噛んで、正しく呑み込む嚥下機能を良好に保つことは、健康長寿達成への近道として重要性を増しているこの頃である。 最近、大阪大学の研究グループ(公衆衛生学:丸尾歩氏ら)の発表によると、笑う頻度が高い人ほど嚥下機能が良好に保たれていることが判明したという。

 この研究は多地域コホート研究の一環として行われ、65歳以上の健診受診者810人(男性357名、女性453名)について笑う頻度を、「ほぼ毎日」、「週に1~5回」、「月に1~3回」、「ほとんどない(週1回未満)」の4グループに分け、嚥下機能について「半年前に比べて硬いものが食べにくくなったか」と、「お茶や汁物等でむせることがあるか」の2つを質問したものである。 平均追跡期間は3.2年で、期間中に234名(29%)に嚥下機能の低下を認め、笑う頻度が「週1回未満」のグループは、「ほぼ毎日」のグループに比べ嚥下機能低下のリスクが有意に高かったという。

 折から、日本老年歯科医学会は高齢期の新疾患概念として、「口腔機能低下症」を決め、その疾患概念と診断基準を先月公表した。 新たな病名を使うことで、歯周病や歯の欠損に対する治療にとどまらず、咀嚼や嚥下を含めた口腔機能の低下に対して総合的に対処し、早期に治療できる体制確立を目指すという。 時を得た試みだと思う。

打ちあげて笑顔のならぶ初芝居  松本幸四郎
初笑ひ誘ふ子役の名演技  仁平則子
初笑ひ孫の白き歯光りをり  笹原紀世子
福少し引寄せてをり初笑  稲畑汀子

庭の菊を玄関へ
庭の一角で咲いた菊を刈って居間へ生ける (2016年晩秋 撮影)

 

小学生の入浴は週2~3回で十分

 ヒトの皮膚の表面には多くの細菌が常在しており、これによって免疫機能が強化され、各種病原体に対する免疫を獲得して、感染しても発症しにくい体づくりに役立っている。 液体ボディソープや石鹼で頻繁に体を洗うと、皮膚は乾燥し、皮膚のバリア機能が失われ細菌の攻撃を受けやすくなる。

 皮膚のバリア機能とは、表皮内の角質層にある水分の蒸発を防ぎ、外界からの細菌やアレルゲンなどの異物の侵入を防ぐ役割のことである。 表皮内の角層には、皮脂、天然保湿因子(尿素、アミノ酸など)、角質細胞間脂質(セラミド、脂肪酸など)の3つの重要因子が存在し、共同して皮膚の潤いを保っている。 過度に洗浄すると、最外層の皮脂が取り除かれて皮膚が乾燥し、バリア機能が障害され、同時に物理的または化学的刺激により痒みの神経線維が活性化され、表皮内へ伸びてくるため、痒みが発生しやすくなる。 

 さて、米国皮膚科学会(AAD)が今秋公表したところによると、6~11歳の小学生は一般的に、週に2~3回の入浴でよく、洗髪もこの年齢では一般的に週1~2回で十分だという。 ただ大量の汗をかいたり、泥遊び、プールや海水浴などの後では、随時入浴が勧められるとしているので心しておきたい。 12歳前後の思春期以降は、毎日入浴が望まれ、洗顔も朝晩毎日すべきとしている。 ただし高齢になるほど皮膚は乾燥するので、洗いすぎには注意し保湿に心がけるべきである。 「老化とは乾燥の過程である」という名言がある。 乾燥は皮膚に表れやすいのだ。 湿疹や皮膚炎、乾燥肌など皮膚の病気を認める場合は、皮膚科医に相談したうえで入浴頻度を判断すべきは当然である。

温泉に映る満月手ですくい   内田幸太
名月を両手に掬う露天風呂  池口淳子
降る雪にネオンが滲む外湯かな  山田たき子
からからと初湯の桶をならしつつ  高浜虚子

筑波山紅葉
筑波山の秋 (2016年11月7日 撮影)

筑波山千両
筑波山の千両:白雲橋コース沿いにて (2016.11.7 撮影)

飲酒で不整脈リスク上昇

 飲酒は過剰にならず適量なら、長期にわたって続けても健康維持のためにはプラス面も多いといわれてきたが、それを否定する結果が、最近米国心臓学会(ACC)から発表された。

 この研究はフラミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)に参加した平均年齢56歳の男女5200例の心電図を6年以上にわたり解析したもので、1日のアルコール摂取量が10グラム(日本酒半合あるいはワイン90ml相当)増える毎に、心房細動の新規発症リスクが5%上昇することが判明したという。 またアルコール摂取量が10グラム増える毎に、心臓の左心房が0.16mm拡大したという。

 心房細動は高齢者に頻度の高い不整脈である。 加齢とともに増加し、70歳代の5%、80歳代の10%の頻度でみられる。 日本では約130万人いるとされ、潜在患者は200万人を超すともいわれる。 心房細動は脳卒中の主要危険因子であり、心不全の原因ともなる。 発作性、持続性、永続性などに分類され、危険因子として、アルコールや加齢のほかに、高血圧、過労、喫煙、ストレス、糖尿病、睡眠時呼吸障害、心臓弁膜症などがある。 

 心房細動は、自分で脈をとれば脈が規則正しく打たず、でたらめに打っているので絶対性不整脈とも呼ばれ、心電図をとらなくてもわかることが多い。 

 飲酒は適量であっても長期にわたって飲み続けると心臓には有害であり、週に何日かは飲まない日を作るよう心がけるのが良いようだ。

コスモスや蝶も吹かれて風つよし  西山泊雲
嘘すこしコスモスすこし揺れにけり  三井葉子
コスモスの紅白ピンクあの世かな  中島澄夫

H28愛牧の秋
秋色の愛知牧場 (2016年10月24日 撮影)

プロフィール

中島澄夫

Author:中島澄夫
約80坪の畑を耕し、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンニク、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、大根、生姜、馬鈴薯、玉葱、白菜、青梗菜、小松菜、空心菜、金時草、水菜、スナックエンドウなどを自家用に栽培。近著として、「高齢者医療:健康長寿と全人的ケアをめざして」(オーム社、H20.4)など。名古屋市緑区在住。

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