痩せるホルモンGLP-1の正体

 数ヶ月前になるが、サバ缶を食べると、「痩せるホルモンGLP-1が増える」とTV番組で報道され、一時期スーパーからサバ缶が消えるという珍事が起きた。 GLP-1は、Glucagon-like peptide-1(グルカゴン様ペプチドー1)の略語で、食後に主に下部小腸粘膜に多いL細胞より分泌され血中に放出される消化管ホルモンの一つである。 GLP-1は血糖値が高い時は膵β細胞からのインスリン分泌を増強し、血糖値が正常あるいは低い時にはインスリン分泌を増強しないという特徴をもつ。 

 GLP-1の主な生理作用として、1)血糖値に依存して膵臓β細胞からインスリン分泌を刺激し、α細胞からのグルカゴン分泌を抑制して血糖を下げる、2)食後の胃運動や胃酸分泌、膵酵素分泌を抑制し、小腸からのグルコース吸収を遅らせ食後血糖の上昇を抑える、3)脳(視床下部)の満腹中枢を刺激し食欲を抑え体重減少をもたらす、などが知られる。さらに肝臓でのグリコーゲン合成促進とグルコース産生抑制、腎臓からのNa排泄促進と尿量増加、膵β細胞保護増殖作用、心筋保護と血圧低下、脳へのアミロイドβ沈着を抑制、など多彩で有益な作用をもつことが明らかにされつつあり、長寿ホルモンとしての期待もある。

 小腸上部に分布するK細胞から分泌される消化管ホルモンのGIPにも膵からのインスリン分泌を刺激する作用を認めるが、GIPには脂肪蓄積による肥満作用がみられるため糖尿病治療薬の候補にはならない。

 食事刺激によってL細胞から分泌されたGLP-1は、約2分間で全身の血管や臓器に存在するDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)という酵素により、90~95%が不活化、破壊され、膵に到達できるのは、わずか5~8%である。 そこでDPP-4の働きを阻害し、糖尿病の高血糖を改善する内服薬として、DPP-4阻害薬(シタグリプチン、アログリプチンなど)が開発された。 2010年から今年にかけて続々と登場し、単独投与では低血糖を起こさない2型糖尿病治療薬として広く使われつつある。 またGLP-1アナログ製剤として、1日1回皮下注射用のGLP-1受容体作動薬(リラグルチド)も開発され使用され始めた。

 食後のGLP-1分泌には、個人差が大きいとされる。 分泌が多い人は糖尿病にはならないわけだ。 GLP-1の分泌を促進する栄養素として、食物繊維、グルコースなどの単糖、グルタミンなどのアミノ酸、オレイン酸、αーリノレン酸、EPA,DHAなどの不飽和脂肪酸、などが知られる。 食物繊維はアボカド、ゴボウ、ひじきの煮つけ、カボチャなどに多いが、GLP-1分泌細胞(L細胞)は小腸下部に多いので、そこまで到達する食物繊維を効率よく摂取する必要がある。 EPAやDHAはサバ、イワシ、いくら、マグロなど青身魚に多い。 サバ缶(200g)には水煮(380Kcal),みそ煮(380Kcal)、味付け(430Kcal)の3種類があり、カロリーと塩分の最も少ない水煮がダイエットには適している。 糖尿病患者では、魚類の摂取量が多い人ほど、コントロール目標となるHbA1cの改善効果が大きいとされる。 最近の研究によると、オメガ3脂肪酸(EPA,DHA、DPA)の血中濃度が高いと、悪性の前立腺癌の発症リスクが2倍以上に増加するとされ、特にサプリメントや薬剤での摂取には男性では注意が必要だ。

 三大栄養素をバランスよく摂取することが、食後のGLP-1分泌を高める要因の一つであり、食品構成を考えて選び、野菜から先に食べるよう心がけ、早食いを避け、食後の血糖上昇が過度にならないよう注意したいものだ。


   恋びとよ砂糖断ちたる月夜なり      原子公平
   玉霰夜鷹は月に帰るめり         小林一茶
   月の出や総立ちとなる松林        徳永山冬子
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中島澄夫

Author:中島澄夫
約80坪の畑を耕し、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンニク、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、大根、生姜、馬鈴薯、玉葱、白菜、青梗菜、小松菜、空心菜、金時草、水菜、スナックエンドウなどを自家用に栽培。近著として、「高齢者医療:健康長寿と全人的ケアをめざして」(オーム社、H20.4)など。名古屋市緑区在住。

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