歯を失うと認知症リスクが高くなる

 食事、運動、睡眠の3つは健康3原則といわれ、健康長寿を目指し健康寿命を伸ばすためにはいつも心に留めておくべき大原則である。 食事は腹8分目より腹7分目がよいとされ、「少食多噛」の実践に心がけ、毎食最低20分かけるべきとされる。 一口30回以上噛む習慣を身につけると、量を減らしても満腹中枢が刺激されて満腹感が得られやすく、食事時間も延長する。 農耕民族の日本人は欧米人に比べ元来インスリン分泌が少ないため、食事の時はいつも最初に野菜(生、調理)から食べて食後血糖の上昇を抑える工夫が必要である。 

 さて、よく噛むためにはよい歯が必要である。 国の重点施策として「80歳になっても20本以上の永久歯を保とう」という「8020(ハチマルニイマル)運動」が施行されて今年で25年となる。 歯が20本あれば、ほぼ何でも噛んで食べられるからだ。 成人の5人に1人は歯周病をもつとされ、日本人が加齢とともに歯を失う原因のトップは歯周病である。 EUの認知症研究グループが、WHOとアメリカ老化研究所(NIA)との共同研究で、認知症に関するメタ解析を行い、歯の喪失はアルツハイマー型認知症の危険因子の一つであると指摘して以来、日本でも同様の調査研究が行われ、これを支持する結果が多くある。 しかし歯を失うと、どのようなメカニズムで認知症を発症するのかは謎であった。

 この謎を解くため、最近、広島大学、名古屋市立大学、奥羽大学の合同研究チームは、マウスを用いて歯の喪失と認知症の関係を実験的に証明することに世界で初めて成功し、発表した(Behavioural Brain Research: 電子版、2013.7.4)。 研究チームは、アルツハイマー病マウス17匹を対象とし、暗い部屋へ入ると電気ショックを受けることを覚えさせた後に、「両側奥歯の臼歯を抜いて咬み合わせをなくした」群(10匹)と、「抜歯しないで咬み合わせを維持した」群(7匹)の2群に分け比較した。

 抜歯から4ケ月後に実験(ステップスルー型受動的回避試験)すると、歯のある対照群のマウスは全て暗い部屋に入らなかったが、奥歯を抜いた抜歯群のマウスは6匹が暗い部屋に入り、学習・記憶能力が低下していた。 抜歯群マウスを解剖すると、記憶をつかさどる海馬の神経細胞が大幅に減少していた。 脳内のアミロイドβの沈着には差が無かった。

 ということは近年注目の脳由来神経栄養因子(BDNF)が、抜歯で大幅に減少したのではないかと思う。 BDNFは脳内の神経細胞の成長を促したり維持したりする液性たんぱく質で、情動にも関与する。 歯は物を噛む働きだけでなく、歯を包む歯根膜から神経を通じて脳へ刺激を送る役目をもつ。 歯で噛む刺激で脳の血流量が増え、その結果BDNFの分泌が増加し脳が活性化しているのだ。

 「ぼけ予防協会」(2006年)は、認知症の一般的リスクファクターとして、1)喫煙歴、2)飲酒歴、3)降圧薬の服用、4)心血管疾患、5)高脂血症、6)総コレステロール値220mg/dl以上、7)糖尿病(HbA1c : 6.5%以上)、8)高血圧(降圧薬を服用する前の早朝家庭血圧が135/85mmHg以上)、を列挙しているが、歯の喪失も大きなリスクファクターの一つといえる。

 アルツハイマーカフェや農場型デイケア施設(グリーン ケア ファーム)など先進的な認知症ケア施策を推進するオランダでは最近、世界で初めて認知症村をWogeweyに誕生させたという。 我が国における90歳以上人口の認知症発症率は50%である。 つまり90歳以上生きる人の2人に1人は認知症となる。 百寿者が年々右肩上がりに増加する日本社会で、認知症対策は全国民の課題である。 食事の際には、物をしっかり噛んで噛む回数を増やし、認知症の予防につなげたいものだ。

 山小屋の歯ブラシ浸す岩清水   高畠光子
 かくれ家や歯のない口で福は内  小林一茶
 結びよりはや歯にひびく泉かな   松尾芭蕉
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コメント

No title

老いは歯から来るといわれてますよね、歯が大切なのは
わかっていても食後毎回は磨きも難しい時もあります。

年をとるとどうしてもやわらかく消化のよい物を
食べがちですが、気をつけないといけませんね^^:

Re: No title

> 老いは歯から来るといわれてますよね、歯が大切なのは
> わかっていても食後毎回は磨きも難しい時もあります。
>
人間、活動範囲が広いですから、歯磨きは確かに困難な時も多いですね。でも、8020運動を始めてから80歳で歯を20本持っている人が年々増えているという統計があり、やはり意識して自分の歯を守ることが大事のようです。爪楊枝や歯間ブラシを携帯すると便利なことも多いです。
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プロフィール

中島澄夫

Author:中島澄夫
約80坪の畑を耕し、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンニク、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、大根、生姜、馬鈴薯、玉葱、白菜、青梗菜、小松菜、空心菜、金時草、水菜、スナックエンドウなどを自家用に栽培。近著として、「高齢者医療:健康長寿と全人的ケアをめざして」(オーム社、H20.4)など。名古屋市緑区在住。

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