1日当たり食塩摂取量の新基準:5g/日未満について

 近年、食生活の欧米化やモータリゼーションの発達とともに生活習慣病、なかでも高血圧、糖尿病などの動脈硬化性疾患の有病率が著しく増えている。 65歳以上の高齢者では高血圧の治療費が全医療費の約33%を占めて最も多く、高血圧患者は4000万人にも達する勢いである。 間違った食習慣に運動不足が加わり、それに伴って起こる肥満やストレスなどが主な原因で、背景に遺伝要因が絡む。 

 高血圧は生活習慣以外にこれといって原因のない本態性高血圧と副腎など特定の臓器の病気によって起こる二次性高血圧がある。 本態性高血圧は高血圧の大部分を占め、食塩の過剰摂取で血圧が上昇し、減塩で血圧が下がる食塩感受性高血圧と食塩の増減で血圧が変化しない食塩非感受性高血圧に2分される。 我々は摂取した食塩の大部分を余分な塩分として尿に排泄し、一部を汗として排泄するが、食塩感受性の高い人は腎臓からの食塩排泄能が悪く、食べた塩分を体内に保持する傾向が強く、血圧が上昇することになる。 食塩感受性高血圧の人は、夜間睡眠中に血圧が下がりにくく、早朝高血圧になりやすい。 食塩を調味料として使う習慣がなく、自然食品由来の食塩摂取量(3g/日)だけで生きるエスキモー(アラスカ)には高血圧の人はいないという現実がある。 食塩感受性高血圧の人にとって、減塩は重要である。

 食塩感受性には遺伝的要因による人種差があり、黒人は約80%、白人は30%、黄色人種はその中間といわれ、日本人は約50%が食塩感受性を持つといわれる。 最近の研究によると、食塩感受性に関与する「Tアレル」という血圧上昇遺伝子を日本人の80%がもっているとされ、これは白人の40%に比べて2倍である。また加齢とともに腎機能が低下するため、一般に高齢者では食塩感受性が高くなる。 さらに重度高血圧の人では食塩感受性は高い傾向を示すことが多い。

 世界保健機関(WHO)は、本年1月31日、成人の食塩摂取量を1日当たり5g未満にすべきだとする新しい健康指針を発表した。 厚生労働省調査(2011年)によると、日本人の1日当たり食塩摂取量は成人男性が11.4g、女性9.6gであり、新指針を大きく上回っている。 日本高血圧学会は6g/日未満を推奨するが、達成できる人は少ない。 厚労省は2015年までの現実的目標として、男性9g未満、女性7.5g未満を掲げて、減塩の努力を促している。

 さて、食塩には血圧への影響とは別に、脳、心、腎など臓器内レニン・アンジオテンシン系(RAS)を亢進させ、直接臓器障害性を示す作用があり、また血小板凝集能を亢進させたり、自律神経の交感神経を刺激するなどの作用を持つことも明らかになっている。 食塩の持つ人体への悪い作用である。

 食塩感受性とは、「任意の食塩摂取下における血圧の上がりやすさ」であり、我々日本人は人種的に食塩感受性の高い人が多いことを念頭に置くべきである。 現世代の我々は生来、塩味に慣らされており、WHOの新指針はむしろ、次世代への呼びかけともとれる。 現世代の我々は、次世代への良き橋渡しとなれるよう日々減塩を心がけて生きていきたいものである。


    塩の道かも怒鳴りたいほど蜻蛉澄み     小堀 葵
    塩の道守る馬頭尊日脚伸ぶ          中島 葵
    雪解水みぎにひだりに塩の道         建部園江
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コメント

No title

わかっていてもつい 濃い目の味になれてしまって
名古屋人は 特に味の濃い食べ物が好きですよね

料理を作る者としては気をつけなくてはいけませんね

Re: 減塩への工夫

> わかっていてもつい 濃い目の味になれてしまって
> 名古屋人は 特に味の濃い食べ物が好きですよね
>
 薄味に慣れるようにしたいですが、難しいですね。特に外食では要注意です。うどん、ソバ、ラーメンの汁は飲まないとか、佃煮・漬けものは少なめにする、焼き魚は塩を使わずスダチやレモンで味付けする、刺身・寿司に醤油はあまり付けない、塩分ゼロのスプレイ式醤油を使ってみるなどして、「少塩多酢」を心がけたいものです。
> 料理を作る者としては気をつけなくてはいけませんね

 確かに料理人の意識改革が必要です。 消費者の理解も大事ですが・・・・

No title

食塩5gとはかなり厳しいですね。既に食品のなかに含まれているものもありますので。
 
 でも健康に過ごすためには食生活を今一度見直し、やれるところからやってみようと思います。

 パンを造る時、5g入れる食塩を3gにする。
 調味料は食塩を使わない。醤油は今までの半分。
 ブログにあるように寿司には醤油を極力つけない。汁を飲まないなど。
 

どこまで出来るでしょうか。

Re: No title

> 食塩5gとはかなり厳しいですね。既に食品のなかに含まれているものもありますので。
> 加工食品ではなく、自然食品のみで食塩摂取量は大体3g/日になるようです。そして3gが普通に暮らしている人の生理的必要量ですので、大部分の人はとり過ぎとなっています。  
>  でも健康に過ごすためには食生活を今一度見直し、やれるところからやってみようと思います。
>
>  パンを造る時、5g入れる食塩を3gにする。
>  調味料は食塩を使わない。醤油は今までの半分。
>>
 努力すれば必ず報われるはずですね。 健康増進を達成するためには人の見えないところでどれだけ努力するかで決まるように思います。 
>
> どこまで出来るでしょうか。
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プロフィール

中島澄夫

Author:中島澄夫
約80坪の畑を耕し、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンニク、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、大根、生姜、馬鈴薯、玉葱、白菜、青梗菜、小松菜、空心菜、金時草、水菜、スナックエンドウなどを自家用に栽培。近著として、「高齢者医療:健康長寿と全人的ケアをめざして」(オーム社、H20.4)など。名古屋市緑区在住。

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