黄砂の変貌

 八重桜が満開となり、ハナミズキやつつじも咲き始め、いよいよ春本番である。 この時期、黄砂(霾:Asian dust)飛来の季節でもある。 日本では、6~7万年前から飛来したとされ、古くより俳句や詩歌にいろいろな表現で取り入れられ、一つの文化でもある。 黄砂は中国を中心とした東アジア内陸部のタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原など乾燥地域の砂塵が強風を伴う砂嵐によって数千メートル(最大7~8kmの上空に巻き上げられ、春先の4月を中心に偏西風に乗って日本に飛来し、大気中に浮遊、あるいは地上に降り注ぐ気象現象である。 東アジアの広範囲にみられるが、日本では、偏西風の強まる4月に最も多く、夏に最少となる。 例年、日本には1Km2当たり1~5トン/年の黄砂が飛来し、北太平洋全体では約3.3億トン/年の黄砂が降下するといわれる。 

 金沢大学の研究グループ(早川和一教授ら)は、大気汚染物質の微小粒子物質PM2.5(particulate matter 2.5)に黄砂が混じって結合すると、PM2.5に元々付着しているPAH(多環芳香族炭化水素:polycyclic aromatic hydrocarbon)がニトロ化し、大量のNPAH(nitropolycyclic aromatic hydrocarbon)が発生し、これにより発がんリスクが100倍以上高い物質が生成されやすくなると指摘した。 PAHは、ベンゼン環を2つ以上もった芳香族炭化水素の総称で、100以上の化学物質からなり、そのうちいくつかはベンゾピレンなど発がん性や遺伝子変異性、内分泌かく乱性の物質であることが分かっている。 PAHよりさらに有害なNPAHは、黄砂に付着しているので、マスクによる除去効果が期待でき、研究グループは屋外でのマスクの積極的利用を呼びかけている。 PM2.5と黄砂のいずれもが多い日には、PM2.5を通さないマスク(N95やDS2規格)の着用がベターである。

 黄砂も今や一昔前のものとは組成と成分が異なるので、健康被害を未然に防ぐ努力が必要となってきたようだ。 花粉情報だけでなく、黄砂情報にも注意したいものだ。


   真円き夕日霾なかに落つ            中村汀女
   暗いなあと父のこゑして黄沙せり       小川双々子
   霾天の濃きがうすきに動きくる         近藤美好女

天が下(サイズ小)
我が家の庭に咲く椿(天が下):2014年4月20日撮影
 
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長生きの特権は白内障

 年をとると多かれ少なかれ白内障を発症し、視力低下をきたす人が増える。 いわば長生きの特権である。 白内障はカメラのレンズに相当する水晶体が濁る病気であり、水晶体の構成分である透明で可溶性タンパク質のクリスタリンが変性し、白色または黄白色に混濁するため、光の通りが悪くなったり、光が散乱したりするので雲がかかったように物がかすんではっきり見えない、何となく見にくい、少し黄みがかって見える、などの症状がでる。 また明るいところでは眩しく、暗いところでは見にくくなったり、物が2つににも3つにも見えたりする症状(複視)がでることもある。 

 日本人の場合、白内障は40歳代後半で始まり、80歳以上では100%の人に出現し、進行の速さには個人差がある。 タンパク質の活性酸素による酸化やグルコースによる糖化が主因とされ、いわば老化現象である。 紫外線、糖尿病、顔面のアトピー性皮膚炎、ステロイドの長期服用などは促進因子である。 白内障の90%以上は老化に関わる加齢白内障である。

 日本白内障学会ガイドラインによると、初期混濁を含めた水晶体混濁有所見率は50歳代で37~54%、60歳代で66~83%、70歳代で84~97%、80歳以上で100%である。 日本白内障疫学研究班分類で程度2以上の進行した水晶体混濁の有所見率は、50歳代で10~13%、60歳代で26~33%、70歳代で51~60%、80歳以上で67~83%と報告されている。 一方、手術を必要とするほど視力が低下する割合は、65~74歳で5人に1人、75歳以上で2人に1人といわれる。 片方の眼に起こると、いずれもう一方の目も白内障になる可能性が高く、両眼が同時に白内障になることも多い。

 白内障の進行を抑える目的で、抗酸化作用とタンパク質不溶化抑制作用をもつピノレキシンやグルタチオンの点眼薬を用いることもあるが効果は不確実とされる。 抜本的治療として、濁った水晶体の中身を超音波で粉砕し、残されたカプセルの中に人工水晶体(眼内レンズ)を入れる超音波吸引手術や、フェムトセカンドレーザーを用いたレーザー白内障手術が行われる。 入れる人工水晶体には、UVカットレンズ、単焦点レンズ、多焦点レンズなど様々な種類がある。 通常の眼内レンズには調節作用がないため、近見に合わせた場合には遠見用の、遠見に合わせた場合には近見用の眼鏡が必要となる。

 Wangらの最近の調査研究(米国眼科学会誌:Ophthalmology 2013,9掲載)によると、白内障の手術を受けて視力障害を矯正すると、手術しなかった場合と比べて、死亡リスク40%低下し、長生きすることが分かったという。 この研究は白内障と診断された49歳以上のオーストラリア人の被験者354人を1992年から2007年までの15年間追跡し、手術を受けた人と受けなかった人を比較したもので、死亡リスクが減少した理由として、1)身体的精神的に安定する、2)生活の自立度が上がり自信が生まれる、3)処方薬の服用遵守能が向上する、などが考えられるとしている。 

 「目は口ほどに物をいう」という。 健康寿命をできるだけ長く維持し、生活の質を上げるため目を大切にしたいものだ。


   点字読む指を仔猫の舌に貸す             三原直子
   毎日が老人の日の飯こぼす              清水基吉
   野に出でよ見わたすかぎり春の風           辻貨物船 

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八方尾根リーゼングラートより白馬三山を望む(2014年3月17日撮影)

            

ネコからヒトへの結核感染

 結核は人から人へ感染するとされ、結核菌の保菌者が「咳」や「くしゃみ」をすることによって結核菌を含んだ飛沫が空気中に撒き散らされ、これを他人が吸い込むことによって感染する。 この感染様式は「空気感染」、あるいは「飛沫核感染」と呼ばれ、感染経路としては最も広がりやすい経路である。 空調換気が悪くて狭い場所では結核菌の飛沫が長く滞留するため、目の前に感染源となる人がいなくても感染することがある。 

 結核は、「結核の歴史は人類の歴史」といわれるほど古い病気で、紀元前から存在する。 日本でも1950年頃までは国民病あるいは亡国病とまで言われるほどに猛威を振るった時代がある。 かつてに比べるとと大幅に減ってはいるが、平成24年(1912年)の新規登録患者数は21283人で、近年横ばい状態にあり、先進国中では高い水準にある。

 平成24年における結核の人口10万対罹患率を都道府県別にみると、最も高いのは大阪府の27.1で、最も低いのは長野県の9.5であり、全国16.7となっている。 全国16.7は、米国(3.4)の4.9倍、ドイツ(4.3)の3.9倍である。 多くの人が集団生活する大都市では感染リスクが高くなる。 感染しても発病するとは限らないが、菌量が多かったり免疫力が低下すると発病しやすくなる。 日本では近年、高齢者の発病が多い。

 
 英国公衆衛生局は2014年3月27日、国内で2人がペットのネコから結核に感染し発病したと発表した。 ネコから人間への結核感染例は世界で初めてとされる。 患者の2人は順調に回復しているという。 ロンドンの西方に位置するバークシャーとハンプシャーでは、2012年12月から2013年4月にかけて9匹のペットのネコが結核に感染していることが明らかにされていたという。 ネコの結核菌と患者の2人から採取した結核菌を比較した結果、同一のものと結論され、ペットのネコが「感染源とみられる」ということだ。

 ペットのネコからヒトへの結核感染も視野に入れなければならない新しい時代を迎えたといえると思う。 ネコや犬を飼う場合には、家族の一員としてきめ細かい健康管理を実践することが求められる。


   柿くふも今年ばかりと思ひけり       正岡子規
   片虹や病みても生きよと父言いし      堀 辰雄
   真夜も熱に覚むれば梅雨の音すなり     藤沢周平

 
 御宝田白鳥2
夕暮れの御宝田遊水地(長野県安曇野市明科地区)と北アルプス:2014年3月17日撮影


五竜岳(サイズ小) 055
白馬47スキー場から五竜岳を望む(2014年3月15日撮影)

プロフィール

中島澄夫

Author:中島澄夫
約80坪の畑を耕し、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンニク、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、大根、生姜、馬鈴薯、玉葱、白菜、青梗菜、小松菜、空心菜、金時草、水菜、スナックエンドウなどを自家用に栽培。近著として、「高齢者医療:健康長寿と全人的ケアをめざして」(オーム社、H20.4)など。名古屋市緑区在住。

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