アロマ(香り)の威力

 いい匂いをかぐと幸せな気分になる。 匂いにも好き嫌いがあるので一概には言えないが、ラベンダー、ローズマリー、レモン、サイプレスなどの匂いを嗅ぐと、多くの人で怒りや痛みを支配する脳領域の血流が減少し、認知機能を司る海馬や側頭葉内側部などの血流は増加するようだ。 自律神経系への影響では、ラベンダーの香りは副交感神経を刺激し、血圧は低下するが食事摂取量は増加し体重が増加するとされ、グレープフルーツの香りは交感神経を刺激し脂肪分解を促進するとともに熱産生を増加させ、食欲を減退させて体重を減らすという(由留木裕子、他:関西医療大紀要Vol.6:2012)。

 アロマセラピーは、ハーブなどの植物(花、葉、果皮、果実、根茎、樹皮など)から抽出された芳香性をもった揮発性の有機化合物である精油(エッセンシャルオイル)を利用して心身の健康や美容を増進する自然療法の一つである。 アロマセラピーという言葉の生みの親は、フランスの調香師、ガットフォセ(Rene Mourice Gattefosse 1881~1950年)であり、彼は1928年に「aromatherapie」という言葉を科学論文で初めて使用した。 ガットフォセは、1937年には、「aromatherapie」という書籍を出版しており、「アロマセラピーの父」ともいわれる。 アロマセラピーに用いられるハーブは多く、漢方薬や薬用植物の多くはハーブである。

 認知症患者は記憶障害だけでなく、匂いを嗅ぐ嗅覚機能も低下するが、老人保健施設での実験的研究で、午前(9~11時)にローズマリーとレモン、夜(19時半~21時半)にラベンダーとオレンジを用いたアロマセラピーを行ったところ、アルツハイマー型認知症の中核症状である見当識と知的機能が有意に改善したという(木村有希、他:Dementia Jpn Vol.19,77-85,2005)。 認知症に対する有効な薬物療法が少ない現状で、アロマセラピーが非薬物療法の一つとして有効性が示された意義は極めて大きいものがある。 なお、精油(エッセンシャルオイル)とアロマオイルは違うので注意したい。 精油は100%天然で、現在約250~300種類の存在が知られる。 アロマオイルは混ぜ物を含み、合成の香りが混じり大量生産でき安価である。 両者は、しばしば混同されるので成分表に注意する必要がある。

 認知症の予防、治療としての非薬物療法には、リハビリテーション、記憶の訓練、カラオケ音楽療法、回想法、光療法、動物介在療法などがあり、多くの施設で取り入れられている。 自然療法のアロマセラピーは、これらに加えて、今後、認知症の有力な予防、治療法の選択肢となりうるようであり、期待の治療法である。 入浴の際に精油を数滴たらして香りを楽しんだり、空気中に精油を拡散させて鼻から吸引する芳香浴や、あるいはハーブティーを入れて香りと味を一緒に楽しむなど、我々は生活の中でもっとアロマを上手に利用していきたいと思う。


   両の手に桃とさくらや草の餅      松尾芭蕉
   冬満月癒しの香り何かある       中島澄夫
   桃咲いて五右衛門風呂の湯気濛々    川崎展宏  

 4月の画像 066
御宝田遊水地(長野県安曇野市明科地区)の白鳥と鴨:2014年3月17日撮影
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噛む回数を増やす食事を

 日本人は時代とともに食事時間が短くなり、早食いの人が増えている。 「早飯、早出し、早支度」という言葉もあるように、多忙な社会生活の中で、一部に早食いを美徳とする風潮さえあるが、これは明らかに不健康習慣の一つである。

 日本人の1回の食事に要する食事時間と咀嚼回数の歴史的変遷をみると、縄文・弥生時代にはそれぞれ51分と4000回、平安・鎌倉時代には30分と2000回、江戸時代には22分と1000回、現代は11分と600回となっている(斉藤 滋著:咀嚼とメカノサイトロジー、風土社、1987)。 噛む回数が減ると、必然的に唾液分泌量が減り、唾液のもつ多くの特典を得られないばかりか、時間の短縮は、血糖が上がる前、すなわち脳の満腹中枢が働く前に、沢山食べてしまい肥満となりやすいのだ。 

 食事では、まず「何を食べるか」が重要であるが、次に「どのように食べるか」も劣らず重要であり、「よく噛んで、唾液を沢山出し、時間をかけてゆっくり食べる」ことが大切である。 常日頃、意識しないと、つい早食いとなりやすいので注意したいものだ。 

 よく噛むことの効用は多く、例えば、1)唾液アミラーゼによりデンプンが分解され消化吸収作用を高める、2)唾液中のラクトペルオキシダーゼにより発がん物質を無毒化したり殺菌作用でO157などによる食中毒を予防する、3)唾液中のIgA、リゾチームラクトフェリンなどは静菌・殺菌作用をもつので感染症を予防する、4)唾液中のガスチンは亜鉛と結合し味覚感度を上げ食物本来の味を感じやすくする、5)脳血流を増やし海馬を活性化するので記憶力を上げる、6)満腹中枢が刺激されやすくなり肥満や生活習慣病を予防する、7)EGF(Epidermal Growth Factor:上皮成長因子)の血中および唾液中への分泌が増え、細胞分裂が促進されて、体が若返る、8)高齢者に多い誤嚥性肺炎を予防する、9)骨芽細胞を活性化し顎骨を強化するとともに顔面筋肉を強化し、顔を若々しくする、などがあげられる。

 最近、城西大学の薬学部の研究グループ(押田知樹氏ら)は、9年間約6300人の検診受診者を対象にした研究(第48回日本成人病学会で発表)で、早食いすると男性では肥満を介してHbA1cを上げ、女性では肥満や他の因子とは無関係に独立してHbA1cを上昇させることを明らかにした。 HbA1c(グリコヘモグロビン)は糖尿病の指標になる血液の検査項目で、6.2%未満が望ましい。 早食いをやめれば肥満や糖尿病を改善できる可能性を示す研究結果である。

 「一口30回噛む」を目標にすると、肥満予防やダイエットに役立つとされる。 「箸置き」の習慣を身につけるのもよい。 食物を一口入れたら、ひとまず箸を食卓に置き、よく噛んで呑み込んでから箸を持つ習慣である。 噛む回数を増やす工夫として、食材選びも大切で、野菜、海草、キノコなど食物繊維の多いものを多用し、肉ならハンバーグよりステーキや焼き肉とするなど、調理法も噛まないと呑み込めないように配慮するのがよい。


  蕗の薹見つけし今日はこれでよし           細見綾子
  野菜ありキノコも賑やかキムチ鍋           中島澄夫
  たたずみてやがてかがみぬ水草生ふ         木下夕爾

 わさび農園サイズ小
冬の安曇野 : 万水川の清流(2014.2.24撮影)

ヒト感染症の70%は動物由来

 国連食糧農業機関はファオ(FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations)とも呼ばれ世界の農林水産業の発展と農村開発に取り組む国連の専門機関の一つである。 本部はローマにあり、1945年に設立された。 ファオは開発途上国を中心に貧困と飢餓に苦しむ人々の栄養水準と生活水準の向上を図ることにより、すべての人々が健康で活発な生活を送れることを目指して活動しているが、同時に知識と情報を蓄積する役目も担っており、食の安全保障(food security) を重要課題として掲げ、国際的な調査に基づいて世界各国へ勧告や提言を行っている。

 ファオは先月(2014年2月)、「1940年以降に、新たに出現した人間の感染症の約70%は動物起源の病原体によるものである」とし、世界各国に感染症予防対策の強化を呼びかけた。 近年、森林伐採や宅地造成などヒトによる環境破壊や愛玩動物(ペット)として飼われる動物が増えた結果、野生動物と人の距離が狭まり、ヒトと動物の接触機会は格段に増えている。

 人と人以外の脊椎動物の両方に感染する病原体による感染症を人獣共通感染症(人畜共通感染症)または動物由来感染症と呼ぶ。 感染している動物との接触やその糞、毛垢などを介して再感染が起きる。 高病原性鳥インフルエンザ、新型肺炎(SARS:重症急性呼吸器症候群)、腸管出血性大腸菌(O157、O26、O111など)食中毒、トキソプラズマ症、E型肝炎、狂犬病、狂牛病(CJD:クロイツフェルト・ヤコブ病)、レプトスピラ症、皮膚真菌症、などが代表例である。

 先月、信州白馬へスキー旅行の帰路、安曇野市にある犀川ダム湖の白鳥湖(写真)へ立ち寄った。 ここでは地元の野鳥の会のボランティア グループが、30年以上にわたり白鳥やカモに1日3回餌づけすることで知られ、この時も200羽以上のコハクチョウとカモが飛来しており、壮観であった。 例年、10月中旬から飛来し始め、越冬し、3月末ごろまでに北方へ帰るという。 近年、地球環境の変化とシベリアでの餌不足のため、北帰行が遅れやすくなっているようだ。 世話人の方から聞いた話では、従来は観察に訪れた見学者にも餌やりに参加してもらっていたが、2008年度から鳥インフルエンザへの懸念があるため、それを中止しているとのことであった。 賢明な取り組みである。

 人間と動物は共存しなければならない。 いかに共存するかは永遠の課題ともいえるが、その時代にふさわしい共存の在り方があると思う。 動物が持っている病原体が人間に移行しないような対策を強化し、よりよい共存の道を開いていきたいものである。


    白鳥の来る沼ひとつ那須野にも        黒田杏子
    太き尻ざぶんと鴨の降りにけり        阿波野青畝
    鴨すべて東へ泳ぐ何かある          森田 峠

  ‘14.2.白鳥湖
 夕刻の白鳥湖 (2014年2月24日撮影)
 

プロフィール

中島澄夫

Author:中島澄夫
約80坪の畑を耕し、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンニク、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、大根、生姜、馬鈴薯、玉葱、白菜、青梗菜、小松菜、空心菜、金時草、水菜、スナックエンドウなどを自家用に栽培。近著として、「高齢者医療:健康長寿と全人的ケアをめざして」(オーム社、H20.4)など。名古屋市緑区在住。

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