睡眠中の口呼吸は百害あって一利なし

 我々人間は呼吸により酸素を外界から取り入れ、炭酸ガスを外界に排出して生命を維持している。 普段は無意識に吸息と呼息を周期的に繰り返すが、心拍と異なり意識的に変えることができる。 ヒトは口でも鼻でも呼吸できるが、鼻で息をする鼻呼吸が正しい呼吸法である。 だが近年、「口から吸って口から吐く」口呼吸の人が増えている。 1歳までの赤ちゃんは全員鼻呼吸であるが、成長するにつれて口呼吸の人が増えるのだ。 成人に達すると、日中は鼻呼吸していても、睡眠中は口呼吸になる人が多い。 起床時にのどがひりひりして乾燥感があり、口の中がねばねばして口唇が乾いている場合は、前夜口呼吸していた確率が高い。

 ヒト以外の動物は全て鼻から息を吸って鼻から吐く鼻呼吸を行う。 犬は暑いと口を開けてハーハーと口呼吸するが、これは体温調節のためで、呼吸のためではない。 そもそも口は消化器の一部で、鼻こそが呼吸器の一部なのである。 

 睡眠中にいびきをかく人は100%口呼吸であり、これでは良質な睡眠をとることはできず、老化を遅らすのに大事な成長ホルモンメラトニンの分泌も低下してしまう。 口呼吸には多くの害があり、空気中の粒子、微生物、有害物質などが直接肺に入ることになり、また口の中を乾燥させ、唾液の殺菌作用を低下させ虫歯や歯周病を発症しやすくするとともに、アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症、呼吸器感染症、睡眠時無呼吸症候群、高血圧など多くの病気の原因となる。 小児喘息やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどは口呼吸を禁止すると、治癒したり、軽快することが多いとされる。

 鼻は空気を浄化する「空気清浄機」の役割をもち、鼻毛や鼻の奥にある繊毛は塵埃や細菌、ウイルス、花粉などの肺への侵入を防ぐフィルター役を果たしている。また鼻粘膜も侵入した雑菌を浄化するとともに、乾燥した空気や冷たい空気を適度に加湿し加温するという「加湿器」の働きをもっている。 口呼吸では、その恩恵を自ら放棄していることになるのだ。 

 日中の覚醒痔に深呼吸で、鼻から最大限大きく息を吸い込み、吸息の2倍以上の時間をかけて口をすぼめてゆっくり息を吐く「口すぼめ呼吸」は、交感神経の緊張を解き、体を副交感神経優位な状態に変える方法として、また慢性気管支炎や肺気腫で呼息がうまくできない人の呼吸法として役立つ。 入眠時にこれを5~10回行うと、入眠を早める効果がある。

 マラソン選手の走りを見ていると、走力の限界をこえ、それまでの鼻呼吸が口呼吸に変わると脱落することが多い。 また口呼吸では顔が歪み、続けると人相まで悪くなる。 口呼吸は健康と美容の敵だといってよい。

 口呼吸を鼻呼吸に変える方法として、1)口を閉じていつも鼻で呼吸するよう意識する、2)睡眠時、上唇と下唇を「口閉じテープ」(ネルネルなど)で留め、口呼吸を防ぐ、3)イムニタス・マスク(口輪筋を軽く押圧して緊張させ、これと連動して動く軟口蓋と舌の間隙を閉じて口呼吸を抑制し、唾液の蒸発を防ぐマスク)を装着する、4)鼻腔を広げるグッズ(ブリーズライト、ノーズリフトなど)を装着し、鼻の通りを良くする、5)おしゃぶりをする:ブレストトレーナーなど大人用のシリコン製おしゃぶりを利用する、6)鼻炎や副鼻腔炎で鼻づまりがある場合には、治療し鼻の通りを良くする、などがある。 各種グッズは最初は違和感を伴う。 自分に合ったものを選び、上手に慣れる必要がある。

 雷をさそふ昼寝の鼾かな        正岡子規
 かげらふにくいくい猫のいびきかな   小林一茶
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「バリカン」はどこの国の言葉か?

 最近は若者の丸刈り頭を見ることはまれで、野球少年など一部に限られる。 私が子供の頃は、育ったのが信州の田舎だったこともあり、頭といえば皆いがぐりの坊主頭で、私も小中高校時代を通して、坊主頭であった。 母が月に1回くらいの頻度で、自分の手でバリカンを操り、髪の毛をきれいに刈ってくれたものだ。 後で、「トラ刈り」と言われたこともなかったので、母の腕はそれなりに良かったのだと思う。 夏はサッパリして気持ちよかったのを覚えている。 そんなことで私の子ども時代は床屋とは無縁で、初めてプロの床屋のお世話になったのは、郷里を離れて大学生になってからであった。

 さて、床屋さんの商売道具の一つである「バリカン」が、外来語であることを疑う人は誰もいないと思う。 だが一体どこの国の言葉かどうか、「バリカン」の語源を知っている人は少ないようだ。 バリカンのことを米国ではクリッパー(clipper)、英国ではヘア・カッター(hair cutter)、ドイツではハールシェレ(Haarschere)、フランスではトンズーズ(tondeuse) ポルトガルではコルタドル・デ・カベロ(cortador de cabelo)という。 世界の主要国の言葉に「バリカン」はないのだ。

 言語学者の金田一京助(1882-1971)は、「日本外来語辞典」(1915年、上田萬年ほか編:三省堂)を編纂するに当たり、バリカンの語源を3年間、悪戦苦闘しながら徹底的に調べたが、これだけは全くわからなかったという。 しかし、とある床屋(東京の理髪店「喜多床」)を訪れた際、幸運に出会う。 店主に聞いてもわかなかったので、「バリカンそのものか、バリカンの入った箱にバリカンと書いてないだろうか」と話しかけてみた。 しばらくして出してもらった箱を見たところ、「Barriquand et Marre]の刻印を見つけたのだ。 これはフランスの製作会社「バリカン・エ・マール製作所」の会社名であり、この時初めて会社名が商品名と勘違いされて日本中へ広まったことを発見した。

 バリカンの原理を考案したのは、19世紀中期のセルビア人、ニコラ・ビズミックとされ、理容用バリカンの発明は米国の自動車会社「キャデラック社」の創業者、ヘンリー・リーランドによるとされる。 日本への最初の輸入は明治7年(1874年)、菱屋(現丸善)がフランスから両手式バリカンを輸入したのが最初とされる。 名前の由来がわかったバリカンは、当時在フランスのパリ日本公使館書記官であった長田銈太郎(1849-1889)が、明治16年(1882年)帰国の際に持ち帰った「トンズーズ」である。 このフランス製の「トンズーズ」が名前をバリカンに変え、理髪師の鳥海定吉が使い始めて全国的に普及したといわれる。この時代の舶来バリカンは高価で、理容ハサミの4倍はしたという。 国産バリカンの実用化は明治21年(1888年)、大阪の鍛冶職人、伊藤謙吉による。 第二次世界大戦後、手動バリカンは電動バリカンとなり、世界的に普及することになった。 日本以外では、現在韓国でバリカンの名前が使われている。
 
 今日から甲子園で夏の全国高校野球選手権大会が始まった。 酷暑の中、坊主頭の球児達に幸多かれと祈りたい。

  自転車の坊主頭に夏の雨           中島澄夫
  バリカンに無口となって雲の峰        辻憲
  初夏や坊主頭の床屋の子           長島肩甲
  バリカンの音心地よし夏の夢         中島澄夫

やけど虫による線状皮膚炎に注意しよう

 夏は蚊をはじめ、ダニやゴキブリなど害虫が活発に動き回るので注意を必要とする季節だ。 今年の夏は特にアリに似たハネカクシ科の「やけど虫」による皮膚炎の被害が増えている。 

 やけど虫(火傷虫)は、「アオバアリガタハネカクシ」(青羽・蟻形・羽隠)の俗名で、日本全土の分布し、6~8月に最も多く発生する。 成虫の体長は約7mmで、頭と尾は黒く体はオレンジ色で、網戸を通り抜ける細さである。 「ハネカクシ」の名前があるように、胸の部分に目立たないがコンパクトに折りたたまれた羽があり、飛ぶことができる。 食性は肉食を基調とするが雑食性で果肉も食べる。 体液に「ペデリン」(Pederin)という毒素をもっており、指でつぶしたり、刺激して刺されたりした時は勿論、触っただけで分泌された体液が皮膚に付着し、「線状皮膚炎」を起こす。 「ペデリン」は水疱を発生させる毒性アミドの一つであり、ハネカクシ科ペデウス属の甲虫の血リンパに存在する。 体液が目に入ると失明する危険もあるというから厄介だ。

 やけど虫に接触して、線状に赤く腫れてミミズ腫れとなり、水疱をつくる症状が、やけどに似ていることから、やけど虫という俗名がついたとされる。 田畑や池、沼、川岸など湿地の草原に生息し、走光性があるので、夜の電灯めがけて飛来し、網戸をくくりぬけて屋内に入り込むこともある。 空飛ぶ「大きいアリ」を見たら、それは「やけど虫」というわけだ。 

 一度でも「やけど虫」を見つけたら夜は窓を閉めて家の中へ入るのを防ぎ、目の前にいる場合は指で潰さず、セロテープでつまんで外に出すか、ハンカチで包み取って外に出すか、あるいは市販の蟻退治用のエアゾール剤など殺虫剤で駆除するのがよい。 死骸にも有毒のペデリンがあるので素手で片付けてはならない。 ティシュを2枚重ねにして摘んで処理するのがよい。

 万が一、接触してしまった場合には、直ちに接触部の皮膚を流水で洗い流す。 体液付着後、約2時間でかゆみと発赤を生じるので、早目にステロイド軟膏で治療する。 多くは7~10日で治るが、治療が遅れて重症化すると傷痕を残すことになるので注意が必要だ。 

 今後2週間は猛暑が続くと予想されている。 夏場は、増える害虫に注意しながら生活したい。

 夜の蚊やおれが油断を笑ふらん       小林一茶
 蚊の声に馴てすやすや寝る子かな      小林一茶
 叩かれて昼の蚊を吐く木魚かな       夏目漱石
 鳴きもせでぐさと刺す蚊や田原坂      夏目漱石
 蚊を叩く血塗りの皮膚をいたわりつ     中島澄夫 

 

   

プロフィール

中島澄夫

Author:中島澄夫
約80坪の畑を耕し、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンニク、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、大根、生姜、馬鈴薯、玉葱、白菜、青梗菜、小松菜、空心菜、金時草、水菜、スナックエンドウなどを自家用に栽培。近著として、「高齢者医療:健康長寿と全人的ケアをめざして」(オーム社、H20.4)など。名古屋市緑区在住。

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