新しい農業のスタイル、「スマートアグリ」ヘの期待

 TTP(環太平洋経済提携協定)への日本の初参加を契機に全国的に農業への関心が高まっている。 関税が撤廃されると、安い農作物が海外から大量に入り、専業農家の経営を圧迫することが懸念されるためだ。 これを打開する一法がスマートアグリ(SmartAgri : Smart Agriculture, 賢い農業)である。
 
 スマートアグリでは、作物の栽培管理を農家ではなくコンピュータが行う。 作物に最適な温度、湿度、肥料などをセンサーネットワークと連携して自動化し、省エネで再生エネルギーを利用しながら育成を管理する。 これは、いわば「植物工場」による省エネ型の次世代農業であり、生産効率が格段に高く、農業に新たな産業革命をもたらす技術として、今や注目の的である。

 スマートアグリの先進国はオランダである。 オランダの国土面積は日本の50分の1で、九州くらいの面積にもかかわらず農業輸出は680億ドルに達し、米国に次ぐ規模で、日本の約30倍に相当する。 オランダの農業人口は43万人で、日本の305万人に対し、7分に1にすぎないのにである。 驚くべき実績である。 超巨大ハウスの中は完全IT化されており、植物にとって最高の環境を維持し、高品質の作物を効率よく栽培する。 害虫は繁殖する前に天敵の益虫を放ち、農薬を使わずに駆除するという。

 農作物を順調に育てるためには、生育状況を常に見て回り、日照り具合、水分量、肥料のチェック、病気や虫害を見ながら農薬を適切に与えるなどの細かいマネジメントを欠かせない。 収穫のタイミングを含めて、従来は栽培者の経験と勘で判断していたものを高度に自動化された技術を用いて作業工程をIT化し、生産効率を一気に上げて国際競争力を高める試みがスマートアグリである。

 元々はオランダの農家が独自で始めた農業のIT化を、国が国策として後押しして広がったとされる。 日本も復興政策の一つとして注目しつつあり、いくつかの試みが進行しつつあるようだ。 日本の農業経営者は、「農作物が安い」とボヤクのではなく、スマートアグリを実践し、自己改革をはかるべき時代を迎えているように思う。 国もこれを国策として積極的に支援すべきだ。


   抱えたるキャベツが海の香を放つ        岩淵喜代子
   色付けばカラスの気配ミニトマト          中島澄夫
   赤トマト畑の色を集めけり             中島澄夫

 
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夏の葉菜の王は空心菜だ

 連日の猛暑でキャベツなどの野菜が品薄となって価格が高騰しているという。 今週に入り、ホウレンソウ、レタス、トマトは平均価格の約2倍になっているらしい。 わが畑ではナスとキュウリは最盛期を過ぎたが、、昨年秋に植えたキャベツが大玉となり、収穫期に入るとともに、春に種を播いた空心菜が見事に育ち、トマト、オクラとともに食べごろを迎えている。 

 空心菜に初めて出会ったのは、平成22年、妻と一緒にタイ旅行した時である。 現地に住む知人の案内で入ったタイ料理店で供された豚肉が入った油炒め葉菜で、シャキッとした歯触りで、異国の日本人の口に合い、「旨い」と思って、その時ウェイターに尋ねた覚えがある。 タイではパックブン(phak bung)と呼ぶ。 

 空心菜はヒルガオ科の熱帯アジア原産の1年草で、暑さに強く、高温多湿のタイ、ベトナム、中国南部、台湾など東南アジアで広く栽培され、日本のホウレンソウのように食べられている。 エンサイ、ヨウサイ、アサガオナなどの別名があり、英語ではwater spinach(水のホウレンソウ)と呼ぶ。 いつごろ日本に伝来したかは定かでないが、沖縄を経て、九州へ伝わったとされる。 水辺でよく育つため水に浮かびやすいように茎が空洞になったというが、日本の普通の畑でも元気に育つ。 20cm前後の長さで収穫するが、切ってもすぐまた側枝を出して再度収穫できるので便利だ。 葉は切れ目の入った長卵形で、秋にはアサガオに似た花を咲かせる。 6~9月まで収穫でき、数少ない真夏の葉菜として利用価値が高く、貴重な存在である。

 空心菜は、ホウレンソウに比べ、βカロテン5倍、カルシウム4倍、ビタミンB群2倍、ビタミンC2倍、鉄2倍を含み、夏バテ予防対策に利用価値の高い野菜だ。 また食物繊維を豊富に含み、食後血糖上昇を抑えてくれるので糖尿病予防にも効果がある。 レシピは多彩で、タイ料理、中華料理では、豚肉とシメジの中華風炒め、ニンニク炒め、アーモンド炒め、ナンプラー炒めなど炒め物が人気である。 和風では茎のてんぷら、和え物、卵とじ、オムレツ、鍋物など利用範囲は広い。 春先に園芸店を訪れると、「エンサイ」の名前で種を売っていることが多い。 本土でも栽培が容易なので、もっと普及させたい夏野菜の一つである。
 
  空芯菜あをあを屋台おぼろにて        白井健介
  空芯菜油炒めの旨いこと            中島澄夫

歯を失うと認知症リスクが高くなる

 食事、運動、睡眠の3つは健康3原則といわれ、健康長寿を目指し健康寿命を伸ばすためにはいつも心に留めておくべき大原則である。 食事は腹8分目より腹7分目がよいとされ、「少食多噛」の実践に心がけ、毎食最低20分かけるべきとされる。 一口30回以上噛む習慣を身につけると、量を減らしても満腹中枢が刺激されて満腹感が得られやすく、食事時間も延長する。 農耕民族の日本人は欧米人に比べ元来インスリン分泌が少ないため、食事の時はいつも最初に野菜(生、調理)から食べて食後血糖の上昇を抑える工夫が必要である。 

 さて、よく噛むためにはよい歯が必要である。 国の重点施策として「80歳になっても20本以上の永久歯を保とう」という「8020(ハチマルニイマル)運動」が施行されて今年で25年となる。 歯が20本あれば、ほぼ何でも噛んで食べられるからだ。 成人の5人に1人は歯周病をもつとされ、日本人が加齢とともに歯を失う原因のトップは歯周病である。 EUの認知症研究グループが、WHOとアメリカ老化研究所(NIA)との共同研究で、認知症に関するメタ解析を行い、歯の喪失はアルツハイマー型認知症の危険因子の一つであると指摘して以来、日本でも同様の調査研究が行われ、これを支持する結果が多くある。 しかし歯を失うと、どのようなメカニズムで認知症を発症するのかは謎であった。

 この謎を解くため、最近、広島大学、名古屋市立大学、奥羽大学の合同研究チームは、マウスを用いて歯の喪失と認知症の関係を実験的に証明することに世界で初めて成功し、発表した(Behavioural Brain Research: 電子版、2013.7.4)。 研究チームは、アルツハイマー病マウス17匹を対象とし、暗い部屋へ入ると電気ショックを受けることを覚えさせた後に、「両側奥歯の臼歯を抜いて咬み合わせをなくした」群(10匹)と、「抜歯しないで咬み合わせを維持した」群(7匹)の2群に分け比較した。

 抜歯から4ケ月後に実験(ステップスルー型受動的回避試験)すると、歯のある対照群のマウスは全て暗い部屋に入らなかったが、奥歯を抜いた抜歯群のマウスは6匹が暗い部屋に入り、学習・記憶能力が低下していた。 抜歯群マウスを解剖すると、記憶をつかさどる海馬の神経細胞が大幅に減少していた。 脳内のアミロイドβの沈着には差が無かった。

 ということは近年注目の脳由来神経栄養因子(BDNF)が、抜歯で大幅に減少したのではないかと思う。 BDNFは脳内の神経細胞の成長を促したり維持したりする液性たんぱく質で、情動にも関与する。 歯は物を噛む働きだけでなく、歯を包む歯根膜から神経を通じて脳へ刺激を送る役目をもつ。 歯で噛む刺激で脳の血流量が増え、その結果BDNFの分泌が増加し脳が活性化しているのだ。

 「ぼけ予防協会」(2006年)は、認知症の一般的リスクファクターとして、1)喫煙歴、2)飲酒歴、3)降圧薬の服用、4)心血管疾患、5)高脂血症、6)総コレステロール値220mg/dl以上、7)糖尿病(HbA1c : 6.5%以上)、8)高血圧(降圧薬を服用する前の早朝家庭血圧が135/85mmHg以上)、を列挙しているが、歯の喪失も大きなリスクファクターの一つといえる。

 アルツハイマーカフェや農場型デイケア施設(グリーン ケア ファーム)など先進的な認知症ケア施策を推進するオランダでは最近、世界で初めて認知症村をWogeweyに誕生させたという。 我が国における90歳以上人口の認知症発症率は50%である。 つまり90歳以上生きる人の2人に1人は認知症となる。 百寿者が年々右肩上がりに増加する日本社会で、認知症対策は全国民の課題である。 食事の際には、物をしっかり噛んで噛む回数を増やし、認知症の予防につなげたいものだ。

 山小屋の歯ブラシ浸す岩清水   高畠光子
 かくれ家や歯のない口で福は内  小林一茶
 結びよりはや歯にひびく泉かな   松尾芭蕉

プロフィール

中島澄夫

Author:中島澄夫
約80坪の畑を耕し、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンニク、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、大根、生姜、馬鈴薯、玉葱、白菜、青梗菜、小松菜、空心菜、金時草、水菜、スナックエンドウなどを自家用に栽培。近著として、「高齢者医療:健康長寿と全人的ケアをめざして」(オーム社、H20.4)など。名古屋市緑区在住。

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