がんリスクを高める遺伝子異常と乳房や前立腺の予防切除

 この5月、アメリカからは乳がんリスク、イギリスからは前立腺がんリスクを減らすために、予防的に臓器摘出手術を受けたというニュースが相次いで報道され、反響を呼んでいる。 

 米国では7~8人に1人、日本では15~16人に1人が、乳がんに罹るとされる。 世界的人気女優の一人であるアンジェリーナ・ジョリー(37歳)が、遺伝子検査で乳がんリスクを高める遺伝子BRCAー1の変異が見つかったため、87%の高い確率で乳癌のリスク、50%以上の確率で卵巣がんの発症リスクがあるとされ、本年2月16日に健康な両側乳房を予防切除し、4月27日に再建手術を受けたと公表した。 手術により乳がん発症リスクは5%未満に下がったという。 ジョリーさんの母親は乳がんで10年間闘病し、卵巣がんを併発し56歳で死亡した。 母型の祖母も40歳代で卵巣がんで亡くなり、61歳の叔母も本年5月乳がんで死亡した。 米国白人女性の乳がん患者で、BACA 1/2の遺伝子変異が原因である症例は5~10%という。 50歳未満で乳がんになった女性や50歳未満で乳癌に罹った人を近い親類にもつ人は遺伝子検査を受けた方がいいとされる。 母親ら家族に乳がんを認める場合の日本人女性におけるBRCA-1またはBRCA-2に変異を認める割合は約30%で、欧米とほぼ同じ割合である。 乳がんリスクを高めるBRCA 1/2遺伝子の変異をもつ30歳未満の女性にマンモグラフィー(乳房放射線検査)を行うと乳がん発症リスクが有意に上昇するという報告がある。 

 米国では年間約10万人が、この遺伝子検査を受けるという。 テキサス州にあるMDアンダーソンがんセンターの2006年報告によると、遺伝子検査で陽性と判定された女性の約1/3が健康な両側乳房を切除したとされる。 日本では今のところ検査が陽性の場合、早期発見、早期治療が主流となっているが、今後は予防切除も選択肢の一つとして増える可能性がある。 ただ日本での予防的切除は保険適用になっていないため、全額自己負担で、実施前に一例ずつ倫理委員会の承認を得る必要がある。

 遺伝子検査は血液か唾液で行い、米国での費用は約4千ドルで、家族歴でハイリスクの場合には保険が効く。 日本での検査費用は自費診療となり、1人20~40万円程度である。

 イギリスでは、53歳の男性ががん抑制遺伝子のBRCAー2に変異が見つかったとして、がん発症リスクを減らす目的で世界で初めて、前立腺の予防的切除を行ったという。 全摘出した前立腺を調べた結果、潜在していたがんが発見されたという。

 前立腺がんは欧米人に発症率の高いがんで、米国では約10年前から男性が罹るがんの発症率第1位を占め、約20%の男性が罹患する。 日本でも近年、罹患率が急増しており、前立腺がんによる死亡数増加率は、全てのガンの中で最高となっている。 前立腺は乳房と違い、外から自分の手で触診できないので、早期診断には血中腫瘍マーカーのPSA検査(基準値:4ng/ml)に加え、遺伝子検査は有力な武器となる可能性をもつ。

高脂肪食や飽和脂肪酸の多食は前立腺がんリスクを上げるとされ、欧米人では肥満と背が高いと罹りやすいとされる。 大豆に含まれるイソフラボン、トマトの赤色色素リコピンや緑茶の多飲はリスクを下げるとされるので、食生活では注意したいものだ。

 知立かきつばた2       
かきつばた( 八橋かきつばた園:愛知県知立市にて Photo by S.Nakajima: H25.5.20)

知立かきつばた1
かきつばた2(同上)



                         

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糖尿病受療率の都道府県別ランキング

 その気になれば何でも食べられる飽食の時代となり、血管病ともいわれる糖尿病患者が増えている。 日本では現在890万人の患者がおり、予備軍1320万人を含めると国民の5人に1人となる2200万人以上が糖尿病あるいはその疑いをもっていることになる。 問題は多くの場合、危機的状況になるまで症状なしで経過することで、特に予備軍を早めにみつけて患者教育を徹底することが重要である。

 厚生労働省は3年に1度の頻度で、病院及び診療所を利用する糖尿病患者について全国的な患者調査を行い、都道府県別の糖尿病受療率(人口10万人当たり)のランキングを公表している。 2008年調査では、第1位が香川県で、第2位徳島県、第3位長崎県となっており、西高東低の傾向をみる。 2011年調査では、香川県の糖尿病受療率(人口10万人当たり)は男性が350人で第1位、女性が269人で第2位である。 

 香川県は言わずと知れた讃岐うどんの産地である。 喫茶店でもうどんのメニューがあると聞く。 うどん多食で炭水化物の過剰摂取となりやすく、またうどんはのど越しがよく、十分咬まずに早食いとなりやすく、無意識に食べすぎて食後高血糖を招きやすい。 うどんの食前に食物繊維の多い野菜をしっかり食べれば急な血糖上昇をある程度は抑えられるが、国民健康・栄養調査(2006~2010年)によると、同県民の1日当たり野菜摂取量は男性がワースト2位、女性はワースト1位となっている。

 香川県は汚名返上を狙って、小児期からよい生活習慣を確立させることを目的に、今年度県内の全17市町で公立小4年生と一部の5年生の児童に血液検査(脂質、HbA1c)を実施し、正しい食生活や運動など生活習慣の指導に役立てることを決めたという。  昨年度、12市町の小4児童6743人について血液検査を実施したところ、11.1%の750人で脂質異常がみつかり、また0.4%の25人でHbA1c(糖化ヘモグロビン)の異常高値が発見されたという。  HbA1cは過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映する検査項目である。 

 近年は小学生時代から生活習慣病予備軍がかなりの率で存在することをうかがわせる成績である。 小児期から生活習慣病の予防意識を高める香川県の試みは素晴らしいと思う。

  人の死に寒さしのぎのうどん食ふ       喜納とし子
  うどん屋へ銭のふり込む時雨かな       横井也有

 


税金で一番滞納が多いのは消費税の怪

 決められた税金を支払うのは、その国に生きる国民の義務である。 しからば税制は公平でなければならず、また税金は納税する資金が十分あるところからとり、ないところからはとらないのが原則である。 資金に余裕がないことを知る一つの指標は滞納税額である。 

 国税庁統計年報書をみると、2009年、2010年、及び2011年における消費税の滞納税額は、それぞれ3741億円、3398億円、及び3220億円となっており、源泉所得税、申告所得税、法人税、相続税などを含めたすべての税の滞納額に占める消費税滞納額の割合は、それぞれ50.0%、49.7%、及び53.0%であり、各種税金の中で消費税の滞納が最も大きい。 これは多くの人にとって驚きであると思う。 なぜなら「消費税は我々消費者がモノを買う時に支払う間接税で、滞納などはありえない」と思っている人が多いからだ。

 参考までに2011年の新規滞納税額を税目別にみると、多い順に消費税3220億円、申告所得税1233億円、法人税736億円、源泉所得税593億円、相続税277億円及びその他10億円であり、消費税の滞納が全体の約半分を占めている。 

 言うまでもなく、消費税は物品やサービスなどの消費に対し課される間接税の一種で、車取得税、ガソリン税、酒税、たばこ税など特定物品への個別消費税一般消費税とがある。 1954年に一般消費税が世界で初めてフランスで導入されて以来、ヨーロッパの主要国で広がり、現在では世界の多くの国で導入されている。 日本では約10年の論議を経て、1989年に竹下内閣時、税率3%で導入され、1997年に5%(うち1%は地方税)に引き上げられて現在に至っている。 今後は2014年4月に8%、2015年10月には10%までの引き上げが決まっている。 2012年の当初予算では、国の税収の約24%を消費税が占めている。

 日本の一般消費税は、米国の小売売上税(Sales tax)と違い、事業者(小売店)を納税義務者とし、納税額は1年間の売上額に5%をかけた金額から、1年間に支払った仕入れに5%をかけた金額を差し引いた額を納付することになっている。 すなわち本則課税の場合、納税額の算出は{課税売上高ー課税仕入高}× 5% となる。 事業者が自らの決算で赤字を出しても、納税額を生じる可能性があるため滞納が発生しやすいことになる。 強制的に支払われた消費税が、一部とはいえ途中で消えて国庫に納められていない現実をみると日本の消費税法は欠陥制度といわざるをえない。 

 米国の消費税は文字通り小売売上税で、消費者(顧客)が商品を買う時に税金(州税)を支払い、小売店はその税金をそのまま預かり、1ケ月まとめて州当局に納付する。 事業者は単なる徴収人にすぎないのだ。 これなら極めて透明性の高い間接税といえる。
 
 一般に滞納の多い税金は悪税といわれるが、日本の消費税はその税率だけでなく、徴収の仕組みについても再考の余地があるように思う。

ダニによる感染症が増える春

 5月の大型連休(GW)が終わった。 「GWより普段の仕事の方が楽だ」という人もいるが、連休は精神的ストレスの緩和には文句なしでよい。 今年の連休は多くの人にとって前後に分断されており、物足りなさが残ったのではないかと思う。 中には歓迎した人もいるだろう。 暦の上では立夏も過ぎてもう夏である。 園芸店は大賑わいで花の好きな人は花壇づくりや鉢植えに励み、畑や菜園をもつ人は夏野菜作りに忙しく立ち回る季節である。 この時期、人のみならずダニが活発に動き出す季節でもある。 5月以降、ダニが媒介する感染症が急増するので注意したい。

 まず疥癬である。 「疥癬」はヒゼンダニ(疥癬虫)によって起こる皮膚病の一つで、日本では昔からあり、家庭内や高齢者施設でしばしば集団発生することで知られる。 衣類や寝具を介して人から人へ伝染する。 予防上は、皮膚の直接接触を避けることが肝心である。  肌同士の濃密な接触で感染するので、性感染症の一つでもある。 感染すると顔、頭を除く全身にかゆみの強い皮疹が出る。 病変部の角質層をこすって顕微鏡で虫体や虫卵を確認して診断する。 イベルメクチンの内服やベルメトリンの外用が有効だ。

 マダ二が媒介するマダ二感染症には、日本紅斑熱重症熱性血小板減少症候群の2つがある。 紅斑熱は日本紅斑熱リケッチアを保有するマダ二に刺されることで感染する。 刺されて2~8日頃から高熱、頭痛、全身倦怠感などカゼ様症状を伴って発症する。 38~40℃の高熱が2~3日続いた後、手足や体幹に米粒大や小豆大の紅斑が出現する。 紅斑は四肢に強く手のひらにもみられる。 かゆみや痛みはない。 注意して探すと皮膚にダニの刺し口を見つけることが多い。 ダニ感染症のツツガムシ病より重症化しやすい。 2012年における日本紅斑熱の感染者は三重県で最も多く、37人であり、6年連続で全国最多を記録した。 治療ではテトラサイクリン系の抗菌薬を第一選択とし、重症例ではニューキノロン薬による併用療法を行う。

 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、最近になってその存在が知られるようになった新しい感染症で、マダ二がもっているSFTSウイルスに感染して発症する。 今年の全国の感染は、紅斑熱が2例(4月21日現在)、SFTSが13例でうち8人が死亡している(4月30日現在)。 いずれの患者にも海外渡航歴はなく、日本国内でSFTSウイルスをもったマダ二に咬まれて感染したと考えられている。 SFTSは、2006年に中国で発見され、2010年の調査結果によると中国で700人以上の感染例があり、米国ミズーリ州でも2例の報告がある。 主症状は発熱と消化器症状(腹痛、吐き気、下痢、下血)に続いて白血球減少、血小板減少がみられ重症化して死亡することもある。 致死率は12%程度と推定される。 治療で有効な抗ウイルス薬はないので対症療法が主体となる。 予防用ワクチンもない。 マダ二は硬い外皮に覆われた比較的大きい(3~4mm)ダニで、草むらや森林に生息しており、市街地周辺でもみられる。 日本では青森県以南の全国に分布する。 マダ二の活動は春から秋に活発となるので、山や草むらに入るときには、肌が露出しない服装をする工夫が必要である。

 農作業や土いじりの際に、ダニの一種であるツツガムシの幼虫に刺されてツツガ虫病を発症するケースが、北海道、沖縄を除く全国各地でみられる。 ツツガ虫病リケッチアをもつツツガムシ幼虫に刺されることによって発症する急性熱性発疹性疾患である。 ツツガ虫は草むら、河川敷、林の土の中に生息する。 刺されても痛みやかゆみはほとんどない。 刺されて10日前後で、40℃前後の高熱と頭痛、全身性の発疹が出現する。 紅斑熱と違い、発疹は手のひらには見られない。 重症例では出血傾向、けいれん、昏睡など中枢神経症状、肝障害、心筋障害、肺炎などを起こし、死亡することもあるが、重症化は紅斑熱より少ない。 春と秋に感染者が増える。 治療の第一選択薬はテトラサイクリン系の抗菌薬である。 農作業時には暑くても長袖や長ズボンをはき、長靴や手袋を着用し、肌を露出しないことが予防につながる。 皮膚の露出部にダニ忌避剤を外用するのも役立つ。 脱いだ上着やタオルを地面や草の上に置かない注意も必要だ。

 野山でレジャーや畑仕事、庭仕事、山仕事をする際は、ダニ類に刺されないよう注意したい。


  野菜苗植えて見つめる夏帽子          中島澄夫
  夏来るその青空を仰ぎおり           多田有花
  夕方の水遣り了えて花あやめ          高橋正子

 

  

 

プロフィール

中島澄夫

Author:中島澄夫
約80坪の畑を耕し、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンニク、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、大根、生姜、馬鈴薯、玉葱、白菜、青梗菜、小松菜、空心菜、金時草、水菜、スナックエンドウなどを自家用に栽培。近著として、「高齢者医療:健康長寿と全人的ケアをめざして」(オーム社、H20.4)など。名古屋市緑区在住。

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