日々筋肉を鍛え、体温アップを

 我が国の国民医療費は平成20年以降、22年度まで順に34.8兆円、36.0兆円、37.4兆円と、毎年1兆円規模で増えている。 これを受けて今月22日に開かれた政府の産業競争力会議では、医療費抑制対策として、今の原則2~3割自己負担に対して病気の種類に応じて差をつけることが提案された。 例えば、「カゼなら7割負担」とするなどである。 若者が減り、高齢者が右肩上がりで増える時代になり、医療費抑制には、医療制度の改革だけでなく、病気の予防対策を一段と強化する必要がある。 そのためには国民各自が病気にかかりにくい体作りに励むことが求められ、日頃から自らの免疫力を高めるべく精進する必要がある。

 免疫とは文字通り、疫病(病気)から免れることであり、自己と非自己を区別し、非自己を排除する働きである。 外界から体内に侵入する異物を攻撃、排除する働きといってもよい。 免疫力の主役は思春期までは胸腺、成人では胸腺が萎縮するため、大量の免疫細胞をもつ腸と皮膚が代役を務める。 免疫機能をもった白血球は、体温が上がると活性化し元気になり、免疫力は高くなる。 白血球の中でもマクロファージ、NK細胞、キラーT細胞などの免疫細胞は協同して侵入した細菌やウイルス感染細胞を攻撃して死滅させるだけでなく、健康人でも1日当たり5000個は発生するガン細胞を次々に攻撃して、これらを殺傷し、発癌を防ぎ健康体を守っている。 人体でガンにならない場所が2つある。 心臓と脾臓であり、いずれも常時多量の血液で温かく、冷えとは無関係の臓器である。 一方、外界に通じる肺、胃、大腸などはガンの好発部位である。

 免疫学では、「平均体温が0.5℃上がると、免疫力は35%上がる」といわれ、「平均体温が1℃上がると、免疫力は約60%上昇する」といわれる。 一方、「体温が0.5℃下がると、免疫力は35%下がる」とされ、まさに「冷えは万病の元」である。 人間は体温が1日で一番下がる午前3時から5時に病死する人が最も多いとされる。 近年、「低体温」の人が増えており、最近の50年で日本人の平均体温は0.7℃低くなったとされる。 原因の9割は筋肉量の減少である。 現代人は移動で車を使い、家での生活も機械化され便利になった反面、体内で最大の熱産生器官である筋肉を失い、基礎代謝と体温は下がり、エネルギー消費が減少する一方で、内臓脂肪が増えて生活習慣病を発症しやすくなっている。 筋肉は使わないと萎縮し、減少する。 個人差はあるが、筋肉量は普通の生活をしていても40歳からは1年に0.5%づつ減少し、50歳以上では1年に1%づつ減少して80歳までに30~40%の筋肉を失う。 安静1日で筋肉量は0.5%減少するので、2日間絶対安静を保つと1年分失うことになる。

 人間の筋肉の7割は下半身にあるので、運動では特に下半身を鍛える速歩やスクワットが効率的である。 「継続は力なり」で、自分に合ったものを習慣づけすることが望まれる。 歩く習慣は無理がなく続けやすい利点がある。 1日最低30分は速歩で歩いて軽く汗ばみ、寒い時期の入浴はシャワーではなく10分は湯船に浸かって、体温を上げる工夫を続けたいものだ。 


  外に出よふるるばかりに春の月       中村汀女
  夜桜のその上の空見てゐたり        後藤兼志
 
桜1、H25.3.30
 Cherry blossom in full bloom, in Midori-ku, Nagoya, Japan. Photo by S.Nakajima, March 30,2013
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春一番

 きのうは荒れ模様の天気となり、当地では4年ぶりに「春一番」が吹いた。 桜のつぼみが大きく膨らみ春の到来である。 春一番の認定基準は地域や気象台によって一律ではないようだが、一般には立春(今年は2月4日)から春分(3月20日)の間に、その年に初めて吹く風速8m/s以上の強い風で、南寄りの風であり、しかも気温が平年を上回る、という3つの条件を満たした時に呼ぶとされる。 2月中旬から3月中旬にかけて日本海に発生した低気圧に向け、太平洋側の高気圧から強い風が吹き込む現象で、春の到来を告げる風である。 

 春一番は毎年みられるとは限らず、東海地方では4年ぶりだという。期間中、同じ年に同様の南風が複数回発生した場合には、春二番、春三番、春四番と呼ぶこともあるそうだ。 江戸時代後期の安政6年(1859年)、長崎県壱岐の漁師が出漁中に強風で漁船が転覆し、53人死亡という事故を起こして以来、漁師が南風の強風を「春一番」と呼び警戒したのが、「春一番」の語源とされる。 またこれを「俳句歳時記」に紹介したのは民俗学者の宮本常一で、俳句の季語としては比較的新しいものとされる。

 春一番に影響されたのかどうか、WBC(world baseball classic)で、サムライJapanが準決勝でプエルトリコに敗れて、残念ながら3連覇を逃してしまった。 でも野球というスポーツを世界に広めるという観点からみると、毎回違う国が入れ替わって優勝した方が各国で盛り上がり、より効果的とも考えられるので、そういった面からは、むしろよかったのかもしれない。

 春一番競馬新聞空を行く             水原春郎
 あいまいなをとこを捨てる春一番         田口風子
 春一番縁の下より矮鶏のとき           半谷智乗

満開のしだれ梅
Sauce plums (Kureha Shidare) in full bloom, Nagoya,Japan, photographed by S.Nakajima

理想的な脂肪の摂り方とは

 「長生きしたけりゃ肉は食べるな」と題する本が売れているという。 本当かどうか誰も知りたいところだ。 昨今の施設では、高齢者の低栄養がしばしば問題となる。 虚弱化して口も開けず、食べることができないのだ。主原因は蛋白質の摂取不足と筋力低下で、背景に認知機能の低下がある。

 人間の身体は生きるために燃料と酸素を必要とし、燃料は蛋白質、脂質(脂肪)、糖質(炭水化物)の三大栄養素である。1g当たりのエネルギー量は、蛋白質と糖質が共に4Kcal/gで、脂質は9Kcal/gと最大である。 理想的な三大栄養素の摂取エネルギー比率(PFC比率)は、一般に蛋白質(P)20%、脂質(F)20%、糖質(C)60%程度とされ、これをPFCバランスと呼ぶ。  その時の体形や活動状況に応じて、P:15~30%、F:20~25%、C:50~70%の変動域で調整する。 近年、日本では食生活の欧米化が進み、脂質の過剰摂取が生活習慣病の温床となっており、1975年頃の脂質と砂糖の少ない日本型食生活への回帰が望まれている。

 脂質は細胞膜の成分、胆汁酸、性ホルモンの原料となり、不足すると血管が脆くなる。 一方、摂り過ぎると内臓脂肪が増え、肥満、脂質異常症、糖尿病、動脈硬化へとつながる。また脂肪の摂り過ぎは、免疫能の低下を招きNK細胞活性を低下させるので、全エネルギーの22%以下とすることが推奨されている。 NK細胞は体内に侵入したウイルスや日々出現するガン細胞を殺傷する能力をもった免疫細胞の一つである。 脂質の材料となる脂肪酸は、炭素結合の仕方の違いから、飽和脂肪酸一価不飽和脂肪酸多価不飽和脂肪酸の3つに分けられる。 飽和脂肪酸は、最もエネルギー効率のよい安定した脂肪酸で、代謝過程で老化促進因子の一つである過酸化脂質を作りにくい脂肪酸である。 飽和脂肪酸は肉や牛乳に多く含まれ、一価不飽和脂肪酸はオリーブオイルやサフラワー油に多く、多価不飽和脂肪酸は体内で合成できないため必須脂肪酸、または不可欠脂肪酸の異名をもち青魚や豆製品に多く含まれる。 多価不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエンサン)やEPA(イコサペンタエンサン)には抗動脈硬化作用があり、生活習慣病の予防対策として薬品化されている。 第六次改訂日本人の栄養所要量では、脂肪酸の理想的な摂取比率(SMP比)を、飽和脂肪酸(S):一価不飽和脂肪酸(M):多価不飽和脂肪酸(P)=3:4:3となるよう推奨している。

 国立がんセンターの研究チームが今月(H25.3.11)公表した疫学研究によると、肉や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸を多く摂取すると、脳出血や脳梗塞を含む脳卒中の発症率は23%減少し、逆に心筋梗塞は39%増加したという。 研究チームは日本国内在住の45~74歳の男女約8万2千人を対象に約11年間追跡調査し、動物性脂肪分に多く含まれる飽和脂肪酸の摂取量に応じて、5グループに分けてリスクを調べ、摂取量の最も多いグループ(1日当たり21.6~96.7g)と最も少ないグループ(1日当たり0.8~11.7g)を比較した。  

 総合的にみて、脳卒中にも心筋梗塞にもなりにくいのは、1日に飽和脂肪酸を20g前後摂取する場合で、これは牛乳を毎日コップ1杯(200g)飲み、肉は2日に1回(1回150g)程度食べることに相当し、「飽和脂肪酸は摂りすぎても、少なすぎてもよくない」ことが確認できたとしている。 我々は肉や乳製品を量とバランスを考えて、上手に摂取したいものだ。

 蓮は肉母上は酢でしめるなり          柿本多映
 合掌家自在鈎には牡丹鍋          石崎そうびん
 やましさも食めば忘るる鴨の鍋         岩本和行

1日当たり食塩摂取量の新基準:5g/日未満について

 近年、食生活の欧米化やモータリゼーションの発達とともに生活習慣病、なかでも高血圧、糖尿病などの動脈硬化性疾患の有病率が著しく増えている。 65歳以上の高齢者では高血圧の治療費が全医療費の約33%を占めて最も多く、高血圧患者は4000万人にも達する勢いである。 間違った食習慣に運動不足が加わり、それに伴って起こる肥満やストレスなどが主な原因で、背景に遺伝要因が絡む。 

 高血圧は生活習慣以外にこれといって原因のない本態性高血圧と副腎など特定の臓器の病気によって起こる二次性高血圧がある。 本態性高血圧は高血圧の大部分を占め、食塩の過剰摂取で血圧が上昇し、減塩で血圧が下がる食塩感受性高血圧と食塩の増減で血圧が変化しない食塩非感受性高血圧に2分される。 我々は摂取した食塩の大部分を余分な塩分として尿に排泄し、一部を汗として排泄するが、食塩感受性の高い人は腎臓からの食塩排泄能が悪く、食べた塩分を体内に保持する傾向が強く、血圧が上昇することになる。 食塩感受性高血圧の人は、夜間睡眠中に血圧が下がりにくく、早朝高血圧になりやすい。 食塩を調味料として使う習慣がなく、自然食品由来の食塩摂取量(3g/日)だけで生きるエスキモー(アラスカ)には高血圧の人はいないという現実がある。 食塩感受性高血圧の人にとって、減塩は重要である。

 食塩感受性には遺伝的要因による人種差があり、黒人は約80%、白人は30%、黄色人種はその中間といわれ、日本人は約50%が食塩感受性を持つといわれる。 最近の研究によると、食塩感受性に関与する「Tアレル」という血圧上昇遺伝子を日本人の80%がもっているとされ、これは白人の40%に比べて2倍である。また加齢とともに腎機能が低下するため、一般に高齢者では食塩感受性が高くなる。 さらに重度高血圧の人では食塩感受性は高い傾向を示すことが多い。

 世界保健機関(WHO)は、本年1月31日、成人の食塩摂取量を1日当たり5g未満にすべきだとする新しい健康指針を発表した。 厚生労働省調査(2011年)によると、日本人の1日当たり食塩摂取量は成人男性が11.4g、女性9.6gであり、新指針を大きく上回っている。 日本高血圧学会は6g/日未満を推奨するが、達成できる人は少ない。 厚労省は2015年までの現実的目標として、男性9g未満、女性7.5g未満を掲げて、減塩の努力を促している。

 さて、食塩には血圧への影響とは別に、脳、心、腎など臓器内レニン・アンジオテンシン系(RAS)を亢進させ、直接臓器障害性を示す作用があり、また血小板凝集能を亢進させたり、自律神経の交感神経を刺激するなどの作用を持つことも明らかになっている。 食塩の持つ人体への悪い作用である。

 食塩感受性とは、「任意の食塩摂取下における血圧の上がりやすさ」であり、我々日本人は人種的に食塩感受性の高い人が多いことを念頭に置くべきである。 現世代の我々は生来、塩味に慣らされており、WHOの新指針はむしろ、次世代への呼びかけともとれる。 現世代の我々は、次世代への良き橋渡しとなれるよう日々減塩を心がけて生きていきたいものである。


    塩の道かも怒鳴りたいほど蜻蛉澄み     小堀 葵
    塩の道守る馬頭尊日脚伸ぶ          中島 葵
    雪解水みぎにひだりに塩の道         建部園江

プロフィール

中島澄夫

Author:中島澄夫
約80坪の畑を耕し、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンニク、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、大根、生姜、馬鈴薯、玉葱、白菜、青梗菜、小松菜、空心菜、金時草、水菜、スナックエンドウなどを自家用に栽培。近著として、「高齢者医療:健康長寿と全人的ケアをめざして」(オーム社、H20.4)など。名古屋市緑区在住。

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